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Chasing The Dream - 芝原 仁一郎

Written by Jin'ichoro Shibahara. 芝原仁一郎


シーズン 2008

8月 1日(金)
Grace, ID グレイス、アイダホ:シャツ
Caribou County Fair & Rodeo カリブー・カウンティ・フェアアンドロデオ (PRCA)

見渡す限り広がるアイダホの牧草地帯をひたすら走ると、その町はようやく現れた。

走ってきたハイウェイがそのまま町のメイン・ストリートとなっているが、人通りは少ない。ワン・ブロック右に入るとそこが会場で、駐車場はすでに埋まっている。さらに多くの車が路上に溢れ出している。それでも交通の支障にならないあたりが、田舎の良さなのかもしれない。

ここまで3時間あまり。エアコンもクルーズ・コントロールも効かない私のプレリュードは決して快適とはいえないが、先月、車検を無事通過したことで気分良く走ってくれた。

選手専用の駐車場も早くも埋まっていた。ローパーやバレル・レーサーたちが各々のトレーラーを停めているのだが、駐車場そのものがあまり広くないので、私のぶんのスペースを探すのにすら手間がかかった。運良く、このロデオのプリンセスに選ばれた女性の車の前が空いていたので、そこに停めさせてもらった。母親が荷物の整理をする横で、車のバック・ミラーを見ながらあわててメイクをする彼女と、東京の電車内で人目をはばからずにメイクをする日本の女性と、その心境は似たものがあるのかもしれない。ふと、そんなことを考えた。

オフィスに行ってチェック・インを済ます。エントリー・フィーは$120。今日出場するブルライダーはわずか四人。しかもこのうちの一人が右脚の負傷で棄権し、結果乗ったのは三人だった。

私が引いたブルはD&H キャトル社(D&H Cattle Company)の#204B サヴェイジ・シェイカー(Savage Shaker)。どっかで聞いたことがある、そう思ったがまるで思い出せなかった。D&HキャトルはPBRでも有名なストック・コントラクターだ。悪いはずはない。

準備をして、写真を撮るのに少し歩いてみた。ロデオ・アリーナの正面に遊園地が来ていて、歓声が沸いている。町のほとんどの人がここに集まってきているのだから、当然か。この日ラフ・ストックの選手の数はどれも少なかった。進行も早い。バレル・レーシングの半ばで、サヴェイジ・シェイカーが左サイドのシュートに入る。てっきり右サイドに来ると思って待っていた私は、少しイヤな気がした。反対側に回り、彼にロープを巻く。そのときに、「コイツはすげぇ」となぜかピンときた。骨格というか、筋肉のつき方というか、なにからそう感じたかは分からないが、ただなんとなく、としか言えない。

三人のうち、私が最初に行くという指示が出た。フランク・ストラップを引くD&Hの人の腰に「PBR World Champion Bull」と刻まれた黄金のバックルが輝いている。


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「前に行かないとやられる」、どんなことがあってもロープより前にいないとダメだ。そう言い聞かせて、出た。

サヴェイジ・シェイカーは一歩出てすぐに左へ回る。その速さと、狭いスペースで動ける彼の身体能力の高さに圧倒された。高く蹴りあげられた後ろ足を左から右へ振り回し身体をねじる。乗っていた私は何がなんだか分からないうちに地面に裏返しにたたきつけられ、回り続けていた彼の後ろ足が、私のシャツの左袖を剥ぎ取っていく。ブルファイターの一人が完璧に私を保護してくれているが、その下で、私はまだ蹴り続けられていた彼の後ろ足を眺めるしかなかった。コンマ何秒かの間だが、ブルファイターの足元から這い出してシュートの中に逃げ切るまで、下から見上げた彼の蹴り足の高さはしっかり脳裏に焼きついた。ロープを拾ってきてくれたブルファイターに礼を言うも、笑うしかなかった。

今まで落とされ続けているが、こういう落ち方はちょっと気分が違う。こういうブルに、このような小さいロデオで出会い、乗れたことはむしろ喜びだ。すごいブルとは彼のようなブルのことで、乗ってみて初めて分かる。あとで調べてみて分かったが、彼はPBRのB.F.T.S.の常連で、名だたるブルライダーたちを何人も落としている。また8秒乗り切った選手のほとんどが90点以上獲得している。

子供みたいだが、こういうブルを乗れるようになりたい、そう思った。

芝原仁一郎

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