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RODEO REPORT
本場アメリカのロデオ界の現状がよくわかる

ロデオ界は波乱万丈 (2004年11月20日)

続・ロデオ界は波乱万丈 (2005年3月24日)

ロデオ界は波乱万丈 Vol.3 (2005年9月23日)

ロデオ界は波乱万丈 Vol.4 (2005年10月26日)

PRCAの新たなコミッショナー

前回はプロフェッショナル・ロデオ・カウボーイズ協会(PRCA)とその他の団体の関係と、プロフェッショナル・ブル・ライダーズ(PBR)チャンピオンシップ・ブル・ライディング(CBR)の最近の出来事について報告したが、今回はPRCAそのものが現在抱えている内部問題について説明をしたい。

水面上は平静に見えるPRCAも、水面下では騒動が起きている。ことは去年のNFRまで遡る。2004年12月10日、世界決勝戦ロデオの真っ只中であるにも関わらず、6年間PRCAのコミッショナーを務めたスチーブ・ハッチェル氏が突然、2月中旬でPRCAを辞めると発表した。建前上は国立フットボール財団と大学殿堂の会長に就任する為と述べられたが、会員の間では6年間で800万ドルにも及ぶ損失の責任を逃れる為じゃないかと囁かれている。この財政損失の裏にはハッチェルの浪費疑惑、PRCA独自のブルライディングオンリーのツアー、エクストリームブルズの不人気と赤字、ツアーロデオの赤字とNFRの切り売りなどがあるが、理解をするにはこれらを一つづつ説明していく必要があるのでここでは詳細に述べない。

ハッチェルの入れ替わりとしてPRCA理事会長のトロイ・エラーマンが暫定コミッショナーに就任し、1月24日には理事会により常任コミッショナーに任命されるが、理事会が外部から他の候補者を募らずに身内を任命したという陰暗な疑問が蔓延する。疑いを晴らさぬまま時は過ぎ、8月にエラーマンはCPRAと30年来続いてきた業務提携を2005年いっぱいで打ち切ると発表(Vol.3参照)。これに対し9月7日、カナダ・プロ・ロデオ協会(CPRA)の理事会は業務提携の延長交渉に挑まず、PRCAから分離して独り立ちすると宣言した。30年も続いた関係だけに突然の絶交には両国の会員が不安を隠しきれなく、声を張り上げて異議を唱える者もいた。

チームローピング認定条件種目に

9月2日、PRCAは週間ニュースリリースで2006年から施行される変更を発表。そのうちの一つに今まで東部の39州で選択種目であったチームローピングが来年より認定に必要な条件種目になる発表があった。つまり、今まで東部の州では場所の制限と不人気からチームローピングは行わなくてもPRCAの認定を受けられたが、来年からはチーム・ローピングを行わなければ認定の申請は却下されてしまうのだ。新たな種目を足すことは各ロデオ実行委員会に掛かる負担を増やすだけでなく、他種目の選手達が得られる賞金を減らす可能性がある。選手達が支払う出場料は賞金として入賞者に配分されるが、PRCAの認定を得る為、ロデオ実行委員会はある程度の金を賞金に足さねばならず、これを「アデッド・マネー(Added Money:足し金)」と呼び、カウボーイ達が出場するロデオを決める際、アデッド・マネーの額は彼らの決断を左右する大きな要因である。大抵の場合このアデッド・マネーはスポンサーから得ているスポンサー費用で賄っているが、新しい種目を足すとなるとこの資金を更にもう一度分離しなければならないため個別の額が低下する。つまり、今まで$30万のスポンサー費で5種目の各種目に$6,000を足していたのに、新たな種目が加わると資金調達の為、各種目から$1,000差し引かねばならなくなり、各種目に足せる額が$5,000になってしまう。ロデオの家畜はストック・コントラクター(Stock Contractor)と呼ばれる家畜賃貸業者からレンタルして行うのだが、新たな種目を加えるとなるとこの種目に使用する牛をも借りねばならず、家畜賃貸支出が上がる。また、この種目には特別な設備もあり、これも用意しなければならないのでその費用もかさばることとなる。この様な新たな負担に不満を漏らした実行委員会に対しPRCAの理事会は伝えられるところによると団体の会員からの反発を更に強める提案をした−PRCAの理事会は「バレルレーシングを除外すればいい」と言ったのだ!

なぜ、ロデオの全種目とそれで競う全選手を代表する団体が、ロデオの実行委員会に対し種目の除外を提案するのか?実は、PRCAはバレルレーシングをロデオの正式種目として認定してはいないのだ。バレルレーシングは女性プロ・ロデオ協会(WPRA)が認定・統率している種目であり、バレルレーシングの選手は皆PRCAの会員ではなくWPRAの会員であり、PRCAとの協約のもと、WPRAがPRCA認定ロデオとNFRでバレルレーシングを行っているのだ。しかし、各ロデオを認定するにあたりバレルレーシングの申請はPRCAに送られず、各ロデオはPRCAの認定以外に別にWPRAとバレルレーシングの契約を結ばなければならない。華やかな女性が馬に乗って猛ダッシュでスタートラインを超え、三つ葉クローバの円を書きながら三つの樽を回ってまたラインを超えるまでの時間を競うバレルレーシングは単純で解りやすく、スピード感もあるため観客にも人気でほぼ全てのPRCAの認定を受けたロデオは個別にWPRAと契約し、種目を行っているが、PRCAはチームローピングが過度な負担になるようであればWPRAと契約を結ばなければ良いと言い出しのだ。

PRCA-WPRA関係悪化

この「バレルレーシング排除発言疑惑」以前からもPRCAとWPRAの関係はギクシャクし始めていた。経済難から関係が悪化し離婚沙汰に発展してしまう夫婦の様に、PRCAとWPRAの関係にも財政難が圧力をかけている。ことは2005年7月に始まる。PRCAとWPRAの話し合いでPRCAがWPRAの各選手に対し$100の『競技費』を検討していると伝え、競技費制定を妨げるべく8月11日にはWPRAの会長から書面でPRCA会長に対し、なぜWPRAがこの費用に反対なのかを述べた説明文が送られた。しかし8月17日、PRCAからWPRA事務所にPRCAが来年から各WPRA選手に対して年間$200の『競技費』を請求すると伝える電話での連絡が入れられた。これに対しWPRAの理事会は9月2日に書面で正式に請求はWPRA会員の利益に反するものでありWPRA理事会は全員一致で支払いを拒否する決議に至ったとPRCAに伝えられた。

WPRAとしては既にPRCAに対し団体も各会員も十分に費用を支払っており、これ以上払うことは一般の会員に負い切れない負担を掛けることになるというもの。WPRA会員は毎年WPRAに対して$250の年会費を納めなければならず、これに$200を更に上乗せするとなると毎年$450も支払わなければならなくなる。トップレベルのバレルレーシング選手達は問題なくこの責務を背負えるが、地元の大会をメインに回っているサーキットカウガールには重過ぎる額であるとWPRAは主張する。また、WPRAの理事会は言及してないが、一般のカウガール達に言わせれば、これはPRCAに対して会費を払っているが会員の権利は与えられないのと一緒であるとのこと。一般のカウガール達はまたPRCAの会員も年会費で$250を支払ってはいるが、その上に更に$200は払っていない為大分不平を感じているらしい。

PRCAの言い分としては、WPRAの選手達はPRCAの会員でもないのにPRCAが取得したスポンサーからのスポンサー資金やボーナスプログラムなどから利益を得ており、PRCA主催の大会であるNFRで競って賞金を取得し、またPRCAとの契約の下に行われているテレビ放映でも取り上げられ、PRCAのメディア部を活用して利益を得ているが、これら全てをWPRAはPRCAに見返り無く無償に近い状態で行っていると言うのだ。PRCAの尽力と努力の恩恵を受けているのだから、それに見合った支払いをするべきだというのがPRCAの主張である。

PRCAのライバル団体であるインターナショナル・プロフェッショナル・ロデオ協会(IPRA)は、バレルレーシングを認定しており、バレルレーサーは皆IPRAの会員である。では、「PRCAもその様にすればいいじゃないか」という声が聞こえてきそうだが、そうも行かないのだ。アメリカに女性以外に男性もバレルレーシングで競う団体が無い訳ではないが、アメリカではバレルレーシングは女性の種目という概念が根強く、通常のロデオで男がこの種目で競うのを観たがる人は無に等しい。日本で男性が芸者になろうとするようなものだ。よって、一般のロデオで、男がバレルレーシングで競っている姿はまず目にすることは無いだろう。しかし、かりにPRCAがバレルレーシングを認定した場合、女性限定には出来なくなってしまう。というのも、IPRAの賞金は低く(IPRAの2004年世界バレルレーシングチャンピオンの合計賞金額は約$2万7千(約3百万円)だった)、男性バレルレーサーが独自のバレルレーシングオンリーの団体で競って勝ち取れる賞金と大差ない。しかし、2004年WPRA/PRCAの世界チャンピオンバレルレーサーは賞金だけで$18万強稼いだ。一年で$18万(約2千万円)稼げるとなると話は変わってくる。これだけの賞金を勝ち取れるならPRCAがバレルレーシングを女性限定で認定しようものなら、必ずや認定から数日以内に男性バレルレーサーから性的差別で訴えられるであろう。だからPRCAはバレルレーシングを認定せずWPRAに任せたままにしたいのだ。しかし、同時にWPRAがPRCAから受けている恩恵の請求もしたい。

この件に於いて著者はPRCAに賛同する。WPRAは確かに無償で多大な恩恵をPRCAから受けている。しかし、言い分には賛同してもPRCAの手法にはかなり苦い味を覚える。8月11日付の手紙でWPRAの反対は自明であるにもかかわらず、わずか6日後一方的に費用の制定を決定し、電話でその事実を告げるとは。WPRAから代表の出席を許さずWPRAに多大な影響を及ぼす決定を勝手に行い、告知も書類で行うという一般のビジネス礼儀に反し電話で行ったことはPRCAがWPRAを見下していることをこれ以上不可能なほど明確にしている。

確かにPRCAのロデオで競うWPRAの選手達はPRCAの定義上「招かれし客」という位置付けであるが、かといってその客を侮辱するにも程がある。各選手に費用を科すのではなく、団体そのものに一定の費用を科すべきである。こうすればWPRAはスポンサーを取得して費用を支払えるかもしれない。しかし、各個人に年会費の五分の四に値する高額な費用を科す行為は、一般の選手をアマチュアや他の団体に追いやりWPRAの会員数を減らすに至るだけだろう。

『競技費』に関する討議は現在も行き詰った状態であり、今年中に打開策が見出せる可能性は低いと思われる。これからも継続して注目したい。

財政難は続く・・・

厳しい財政難打開の為、WPRA選手に対する『競技費』以外にもPRCAは新たな資金調達方法を強いられている。2005年からは今まで無償だった終身会員からも年会費$250を徴収し始め、来年から通常会員の年会費を年$360に引き上げることも決定した。が、同時に赤字運営であるツアーロデオやエクストリームブルズも契約上続けねばならず、支出は増える一方。財政難打開の道のりはまだまだ険しく、PRCAの財政難は暫く深刻化の道を歩みそうだ。

ロデオ界は波乱万丈 Vol.5 (2005年12月 2日)

ロデオ界は波乱万丈 Vol.6 (2006年12月 3日)


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